為光を助けた木馬像by松尾寺
若狭富士と呼ばれる青葉山の中腹に、西国三十三所唯一の馬頭観音像を御本尊とする
松尾寺があります。
この馬頭観音にまつわる不思議なお話です。
青葉山のふもとに住む、若狭の漁師たちが仕事を終えて帰る途中のことです。
その日はいつになく大漁で、港に戻る船は活気に満ちていました。
ところが突然、真黒な雲が空一面を覆い、波は船を襲い始めたのです。
村の長、春日為光は、船を急がせるように大声で叫びましたが、木の葉のように舞う
船は、あっという間に波に呑まれてしまいました。
何刻たったのでしょうか。
小島に打ち上げられた為光は、ようやく目を覚ましました。
自分が命拾いしたことに気付き、心から感謝したのです。
その時、ふいに目の前何物か現れました。
一見、獣に見え、人のようにも見えます。
もしかしたらこの世の生き物か鬼かもしれない。
そう思うと生きた心地もしません。
この化け物はだんだん近づいて来ます。
為光は、日頃信心している松尾寺の馬頭観音の御名を、必死で呼びました。
目を開けてみると、一隻の船が岸辺に浮かんでいます。
為光は船をめがけて一目散に走り、飛び乗りました。
すると船はまるで生き物のように滑り出したのです。
無事港に帰っ村の長を見て、村人は大変喜びました。
ふと砂浜見ると馬の足跡が点々と続いています。
その足跡を追って行くと、松尾寺の木馬堂にまで達しているのです。
お堂の中を見ると、木馬像が汗を流していました。
村人は今更ながら観音さまのお力に驚き、いっそう信仰深くなったそうです。
※観音霊場・西国三十三所の昔話より