大きな長谷観音で知られる長谷寺。
その長谷寺にまつわるお話です。
昔、身分の低い若い侍がいました。
身寄りもなく一人ぼっちで、将来に何の希望もありません。
そこで観音さまにすがろうと、長谷寺にやってきて、毎日毎日祈っていました。
やがて21日目の明け方のこと、夢の中に見知らぬ男が出てきて、「おまえには戒めの
心がなく、あれこれ申してけしからんが不憫に思う。暗闇の中でおまえの手に触れる
ものがあったら、決してそれを捨ててはならぬ」と言うと男を追い立てるのです。
男はあわてて寺を出ようとしましたが、大門の所でつまづいて倒れてしまいました。
起き上がろうとした手には、藁の束を握ってます。
「これはきっと観音さまが授けて下さった藁に違いない。
それにしても、あまりに情けない」と、思いながら歩いて行きました。
すると、一匹のアブが顔の前に飛んできました。
うるさいので捕まえて藁にくくりつけて歩いていると、長谷参りの親子が通りかかり
ました。
アブを欲しいと言うので与えると、その代わりにみかんを3個くれました。
男は藁一束がみかん3個になったと喜び、さらに歩いて行くと、今度は喉が渇いて
困っている旅の女に出逢いました。
男がみかんを与えると、お礼に絹の反物をくれたのです。
その夜泊まった宿で、下僕を連れた旅人の自慢の馬が、病気にかかり死んでしまい
ました。
男は、女にもらった反物と死んだ馬を交換したのです。
そして長谷寺に向かって、「どうぞ、馬を生き返らせて下さい」と念じたところ、
馬はゆっくり頭をもたげて起き上がったのです。
喜んだ男は、馬を京の都へ連れて行き、その後大きな財を得て、幸せに暮らしたと
いうことです。
これもすべて長谷観音の御利益に違いないと思った男は、改めて長谷の観音さまに
感謝し、前よりいっそう信心したのです。
※観音霊場・西国三十三所の昔話より